依存症
依存症とは
依存症とは、ある物質を摂取すること、あるいはある行動をすることに対しコントロールができなくなる病気です。何かに依存すること自体は決して悪いことではありませんが、その結果何らかの問題が生じている場合、治療の対象となります。アルコール、薬物、ギャンブルなど昔から存在する依存症もあれば、ゲーム、買い物、盗撮などインターネットや電子機器が普及した現代だからこそ新たに生まれた依存症もあります。
初めのうちは「ついついやってしまった」と軽く受け止め気にならないかもしれません。自分でなんとかできると考えます。しかし病状が進行するにつれ、「こんなはずじゃなかったのにまたやってしまった」「なんでいつもこうなるんだろう」と後悔が増え、自分をコントロールできない感覚に陥ります。そして、体調を崩す、お金が無くなる、家族との関係が悪くなる、仕事をクビになるなど、自分をコントロールできなかった結果生じる問題も大きくなっていきます。
このページでは、依存症の概要について説明するとともに、症状、原因、病気の種類、治療法について分かりやすく解説します。
症状
国際的な診断基準をもとにすると、依存症には以下の特徴が挙げられます。
- 強迫的な欲求
- 頻度、量が増えていく
- 耐性ができる、離脱症状が出る
- 他の活動(楽しみや趣味であっても)よりも依存対象を優先する
- 仕事、健康、人間関係において明らかに問題が生じているにも関わらず依存行動を繰り返す
原因
依存症になると脳の仕組みに変化が生じます。快楽をもたらすドーパミンとよばれる脳の神経伝達物質が関係しています。このドーパミンが分泌されることで生物は幸福感、喜びを感じます。アルコールや薬物などの依存物質を摂取すること、ギャンブルやゲームなどの依存行動をすることでもドーパミンは分泌されます。そしてその頻度や量が増えることでドーパミンは過剰に分泌されます。しかし神経伝達物質は有限であるため、ドーパミンはやがて枯渇してしまいます。その結果、退屈感や抑うつ、不安といった不快な感情が生じます。それが苦痛であるためまた依存対象に手を伸ばします。すると一時的には快楽を得ることができるものの、またすぐにドーパミンが枯渇して不快感情が生じ…と悪循環に陥ります。
これが「やめたくてもやめられない」という依存が形成された状態であり、もはや心の問題のみならず脳の病気でもあるといえます。
依存症の種類
アルコール依存症
アルコール依存症の場合、
- 軽く一杯飲むつもりだったのに結局記憶をなくすまで飲む
- 休みの日になると朝から飲み始める
- お酒が入ると家族に攻撃的な発言をするようだが覚えていない
- 深酒すると失禁、便失禁がある
- 二日酔いが酷く仕事を遅刻、欠勤する
- お酒が抜けると手の震え、不眠、イライラ、下痢といった離脱症状が生じる
といった傾向がみられます。これが年に一回程度であれば大した問題ではないでしょう。しかし、依存症の場合はこういった傾向が徐々に顕著になります。アルコールが生活の中心になり、人間関係や仕事上でトラブルが生じていても飲酒をやめられません。
また、アルコールは身体への影響も大きく、脂肪肝、高血圧などの生活習慣病を始め、膵炎や肝硬変、コルサコフ症候群などの発症リスクを高めます。
薬物依存症
違法薬物(覚醒剤、マリファナ、コカイン、MDMA、LSD、シンナーなど)や向精神薬、市販薬(鎮痛剤、咳止めなど)の摂取がやめられない病気です。昔から「覚醒剤を使うと廃人になる」と言われますが、後遺症として脳に障害が残るほど重症の依存症者はほんの一部です。実際には、大半の患者さんが社会生活を送りながら薬物使用を繰り返しています。とはいえ違法薬物の場合は捕まれば最悪刑務所、そこまでいかなくても失職や離婚など社会的な問題が生じうるため、いつもリスクと背中合わせです。それにも関わらず、自分の意思で薬物使用をやめることが困難です。最初は仲間に誘われて軽い気持ちで始めたものが今では生活の中心となり、薬を買うためなら夜中でも車をとばして売人に会いに行きます。
また、近年は若者のマリファナ乱用、市販薬乱用が増えています。特に市販薬はドラッグストアで気軽に手に入れられ安価です。しかし依存症になると1日に何瓶何箱も服用するようになり、結果的に金銭面でも問題が生じます。中には薬を万引きしてまで入手する人もいます。
ギャンブル依存症
昔はギャンブルといえばパチンコ、スロット、競馬くらいでした。パチンコ屋に行くか競馬場に行くかしないとギャンブルができず、限られた人しか知りえない世界でした。しかし近年はインターネットの普及により、スマホと口座があれば手軽にどんなギャンブルにも参加できます。そのためスマホで競馬にハマる人、投資やFXにのめり込む人、オンラインカジノに手を出す人が増加しており、特に若者の相談数も増えています。「ギャンブルで損した分はギャンブルで取り戻さなければならない」という強迫観念、「勝てば一気に借金を返済できる」という期待感がギャンブル行為に拍車をかけます。繰り返すほどに借金は大きくなります。借金を返済するためにギャンブルをやりまた借金をし、その借金を返済するためにまたギャンブルをやり……と悪循環に陥ります。借金問題は精神面に大きな影響を与えるために多くの患者さんが日常的に抑うつ、不安症状を体験し、最悪の場合追い込まれて自殺に至ることもあります。
また、経済的な問題は家族も巻き込みます。多くの場合、ギャンブル問題が発覚した時点で、すでに多額の借金を抱えており、家族の将来だけでなく今の生活ですら脅かします。問題が大きくなる前に自覚をもって誰かに相談することが大事です。
ゲーム依存症(インターネット依存症)
特に10代~20代前半の患者さんが多い病気です。インターネットの普及により、いつでもどこでも人と繋がることができます。そこは知らない人と一緒にゲームをしたり、動画配信をしたり、新奇な情報が溢れた刺激的な世界です。現実とは異なり、仮想世界であれば強いプレーヤーとなって競争に勝つことができるかもしれません。人から誉められたり羨ましがられたり、承認欲求が満たされます。SNSも同様で、自分の発言や投稿した画像に「いいね」がつくことで注目されている、みんなに認めてもらえたと感じます。やがて仮想世界に時間を使うことが増え、現実生活は二の次になります。成績低下、欠席、退学、仕事に遅刻するなど生活上の問題が徐々に出てきます。特に親の庇護下で暮らす中高生の場合は生活習慣が乱れても衣食住には困りません。将来の自分よりもインターネット上の今の自分の方を優先しやすく、病状の進行が早いですし回復にも時間がかかります。
また、ADHDや自閉スペクトラム症といった発達障害を合併している方も多く、こちらの治療が優先される場合もあります。
買い物依存症
精神疾患として正式に認められた病名ではありませんが、過度な買い物、浪費を繰り返し経済的な問題を引き起こしている方が多くいます。典型的な例としては、ウィンドウショッピングだけのつもりがつい店員さんに誉められて商品を買ってしまう、ブランドものを身につけることで自分の価値も上がった気持ちになるため借金してでも高価な商品を買ってしまうなど、見栄や承認欲求を満たすために身の丈に合わない買い物を繰り返すケースがあります。結局買うだけで満足してしまい、開封もせず部屋に放置し荷物が山積みになることもあります。
近年ではネット通販がメジャーとなったために店頭に行かなくても気軽に買い物ができるようになり、商品を購入するまでのハードルが低くなりました。また、AIの発展によりおすすめ機能が充実し、ネットを見ていると次から次へと興味が引かれる広告が出てきます。出費を抑えようと我慢していても日常には引き金が溢れているため、欲求をコントロールすることが難しいのです。
なお、他の精神疾患が潜んでいることもあります。双極性障害の場合、躁状態で過度な浪費がみられることがあります。発達障害の場合、こだわりからコレクションのために同じものを多数数買い集めることがあります。認知症の場合、過去の購入した記憶自体忘れてしまうため毎回初めてのつもりで購入します。このように過度な買い物行為の背景に他の精神疾患が存在する可能性も考慮しながら治療を進めていきます。
性嗜好障害
性的な嗜好に偏りがあり何らかの問題を引き起こす障害です。例えば、痴漢、盗撮、下着の窃盗、露出行為、小児性愛などが代表的です。こういった問題行動は必ずしも性的興奮を伴うとは限らず、スリルを体験するためのゲーム感覚でやっていたり、ストレス発散に繋がっている方も多くいます。どれも犯罪行為であるため、軽い気持ちで始めたことでも気がついた頃には止めることができなくなっており、その結果逮捕、離婚、失職と社会的問題に至ります。
また、非犯罪のグループも存在します。特定のパートナーがいるにも関わらず他の人との性行為を繰り返す、借金するほど風俗に通う、生活の大半の時間をマスターベーションに費やすなど、性的欲求のコントロールができない状態です。社会的な問題には発展しづらいものの、金銭面の問題やパートナーとの関係悪化、気分の落ち込みなど生活に支障が出てきます。
病的窃盗(クレプトマニア)
万引きを繰り返す病気です。これは盗品の個人的使用や換金を目的とした経済的利益の万引きではありません。盗むことでスリルや快感、解放感を体験でき、その感覚が忘れられずに万引きを繰り返します。とはいえ、実際には多くの患者さんが万引きについて「列に並ぶことが面倒だったから」「他はお金払うし一個くらい良いと思った」「お金がもったいなかった」と説明します。きっかけはなんであれ、万引き行為が習慣化してしまうと後から止めようと思ってもなかなか止められなくなります。次捕まれば刑務所へ行くとわかっていてもやめられず、その後逮捕されて初めて病院に繋がる患者さんも少なくありません。
また、病的窃盗は摂食障害との関連もあります。過食嘔吐のある患者さんは毎日かなりの量の食費がかかるため、やがて「どうせ吐くのにお金を出すのはもったいない」と思うようになり、過食嘔吐用の食品を盗むようになります。この場合は万引きだけでなく摂食障害についても合わせて治療していく必要があります。
家族相談
上記のようにさまざまな依存症がありますが、患者本人が必ずしも治療に意欲的とは限りません。周りからすれば依存行動によって明らかに問題が起きていても、当の本人は問題を否認し他人の言葉に耳を貸しません。一番近くにいる家族はやきもきします。依存症であることを認めさせようと説得したり怒ったり懇願したり、あれこれ世話をやくでしょう。しかし本人は結局その通りには動きませんし、むしろ喧嘩になったり険悪な空気になったり、隠れたり嘘をついてまで依存行動をするようになります。動機付けが不十分な当事者に対し家族がどれだけ正論を伝えても効果はありません。本人が変わりたいと思わなければ行動は変わらないのです。家族は本人の問題に巻き込まれ、疲れ果ててしまいます。
依存症者との関わり方にはコツがあります。現在の敵対的なコミュニケーションを手放し、共感的な関わり方を身に付けましょう。本人のためではなく家族の生活を豊かにするために、まずは家族自身が変えられるところを変えてみることも大切です。
治療法
依存症は繰り返す病気であるため、風邪症状のように1日2日で完治するものではありません。長い間習慣としてきた行動はすぐに変えることはできません。だからこそ、一人ではなく専門家や仲間と共に細く長く病気と向き合っていく必要があります。
医療機関では精神療法と薬物療法を行います。診察やカウンセリングの場では再発防止のために対処行動を身につけること、ストレスに繋がる思考を変えていくことなどを目的とします。
また、依存行動に伴い抑うつ、不眠、不安などの精神症状が生じ日常生活に影響が出ている場合は向精神薬を処方することもできます。
地域のサポート
依存症の相談先は医療機関に限りません。各都道府県にある精神保健福祉センター、役所にも相談窓口があります。またAAや断酒会、ダルクといった自助グループでは同じ依存症で悩む仲間たちが集まり、自身の体験を語り合います。これらは各地で行われており、匿名で参加でき、経済的負担もありません。医療機関のハードルが高いと感じる場合はまず自助グループに顔を出してみるのも良いかもしれません。